皆さんは、お看取りが近い患者様やそのご家族へ、どんな言葉選びをして、思いを伝えていますか?
雪国で働く私は朝、除雪車の音で目を覚まします。
そして、冷え切った空気の中でハンドルを握り、訪問看護ステーションの管理者として現場に向かう道中、いつも今日出会う患者さんとそのご家族に届ける「言葉」を反芻しています。
特に、人生の最終章を共に歩む**「看取り」**の場面。
私たち医療従事者にとって、病状を正確に伝えることは職務です。しかし、事実に即した「正しい言葉」が、必ずしも「優しい言葉」になるとは限りません。
「今日はかなり調子が悪いようですね」
その一言が、張り詰めた糸のように踏ん張っているご家族の心を、ぷつりと切ってしまうことがあります。
だから私は、スタッフにこう伝えます。
「少し遠回りに聞こえるかもしれないけれど、**『今日はいつもより元気が少ないみたいですね』**と伝えてみないか」と。

こんにちは!雪国の訪看ステーション管理者カムです!
今回は私が一人の看護師として、大切にしている
「言い換えの技術」についてお話しします。
「言い換えの技術」とは、単なるテクニックではなく、相手の心に寄り添おうとする「優しさ」を形にする作業です。
患者様、ご家族に寄り添う気持ちの具現化として、私が大切にしていることをお伝えいたします!
この記事はこんな方におすすめ
- 在宅・訪問看護で働く看護師さん
- 看取りケアに関わる医療従事者
- 患者さんやご家族への言葉選びに悩んでいる方
- 新人スタッフへの指導に携わる管理者の方
1.在宅だからこそ重い「看護師の言葉」

病院での経験:正確さが求められる環境
前職では手術室で看護業務に従事していました。
手術室では**「正確な報告」**がとても重要です。病棟でも、患者様の状態を正しくお伝えし、インフォームドコンセントを得ることが基本でした。
医療安全の観点からも、曖昧な表現は避け、事実を明確に伝えることが求められます。
在宅での気づき:言葉の重みが違う
在宅で6年間看護師として働いてきたことで見えてきたこと。
それは、看護師の言葉は、患者様、ご家族にとって非常に重要で、意味のある、価値のあるものであるということです。
なぜ在宅では看護師の言葉が特別なのか
理由はとても単純です。
病院は、いわば医療者が多く集まる医療の総本山のような場所。
医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、多くの専門職がいます。一人ひとりの言葉の価値は相対的に薄まり、その中で特に重視されるのは医師の言葉でしょう。
しかし、在宅ではどうでしょう。
在宅は医療の素人集団です(決して悪口ではありませんよ)。そこに、医療者として看護師が関わるということは、患者様、ご家族にとってもっとも医療的価値ある知識を有するのは看護師ということになります。

良くも悪くも看護師の言葉の重みは、病院やクリニックでの発言と比較にならないほど大きいのです。
2.【実例】言葉選びが大切な理由

ある日、新人スタッフが訪問から戻ってきて、落ち込んだ様子で報告してきました。
「今日、〇〇さんのご家族に『酸素飽和度が下がっています』と伝えたら、奥様が急に泣き出してしまって…私、何か間違ったことを言ったでしょうか」
間違ってはいません。事実を伝えただけです。
でも、その事実の伝え方によって、ご家族が受け取る「重さ」は変わってしまうのです。
あえて「遠回り」な表現を選ぶ理由
日本人は「察すること」が得意だと言われます。
このあと、具体的な言い換えの例を提示いたしますが、本当に重要なことは、「相手を思いやる気持ち」が伝わることだと思います。
世の中には、口下手で説明が苦手な方もいます。
ですが、心の中で思いやる気持ちを持っていることは、必ず相手に伝わるものです。下手ながらも、一生懸命伝えようとする気持ちをきっと「察して」くれます。

諦めず、投げ出さず、丁寧な言葉がけを意識していきましょう!
具体例「今日は調子が悪いですね」の場合
❌そのままの表現 「今日は調子が悪いですね」
⭕️マイルドな言い換え 「今日はいつもより元気が少なめですね」
なぜ言い換えが必要なのか
調子が良いか、悪いか。看護師であれば一目でわかることかもしれません。
もしかしたら、毎日顔を合わせているご家族も、医療の素人であるとはいえ、調子の善し悪しは感じ取っているものです。
そこへダメ押しで「調子が悪い」と看護師が発言してしまうと、相手としては、
「ああ、やっぱり…」 「そんなことわかってる…」
など、なんらかのネガティブな感情を抱いてしまうかもしれません。
ネガティブな言葉は、ネガティブな感情を沸き立たせてしまいます。
嘘をつくわけではない
では、「調子が良さそうですね!」と、観察したことに反して嘘を言うのが正解でしょうか。
それも違いますよね。
医療者として、事実を曲げることはできません。
「言い換え」が心を救う
そこで、心を込めた**「言い換え」**が重要になります。
「悪い」「ない」と断定してしまうのではなく、「少ない」「元気が出にくい」など、完全な否定をするのではなく、**「マイルド」**にします。
遠回りな表現で、人によっては「はっきり言いなさい」と思うかもしれません。
ですが、特に看取りに近い時期は、毎日のバイタルサインや看護師の言葉に、ご家族は一喜一憂するものです。
そういった人の心理を理解し、言葉を選択することは、看護師の必須スキルと言ってもいいでしょう。
3.看取りが近い場面で使える「マイルド言葉」の言い換え帖

実際に私たちのステーションで使っている、あるいは使ってほしいと伝えている言い換え表現をまとめました。
| 医療的・直接的な表現 | マイルドな言い換え | 使う場面・意図 |
| 「調子が悪い」 | 「今日は元気が少なめですね」 | 日々の体調変化を伝える時 |
| 「食事が摂れていない」 | 「今は、お休みすることを体が優先しているようです」 | 食事摂取量の低下を説明する時 |
| 「酸素が下がっている」 | 「一生懸命、自分らしい呼吸のリズムを探していらっしゃいますね」 | SpO2低下を伝える時 |
| 「血圧が不安定」 | 「体が今、ちょうどいいバランスを探しているところですね」 | バイタル変動を説明する時 |
| 「意識がもうろうとしている」 | 「今は、ご自分の世界で穏やかに過ごしていらっしゃるようです」 | 意識レベル低下を伝える時 |
| 「もう長くありません」 | 「大切な旅立ちの準備を、一つひとつ整えていらっしゃる時期ですね」 | 予後を伝える時 |
| 「痛みが強い」 | 「体が『ここにいるよ』とサインを出していらっしゃいますね」 | 疼痛を説明する時 |
| 「反応がない」 | 「今は、とても深いところで静かに休んでいらっしゃいます」 | 反応性低下を伝える時 |
| 「チアノーゼが出ている」 | 「末梢まで温めるエネルギーを、体の中心に集めていらっしゃるようです」 | 末梢循環不全を説明する時 |
| 「亡くなった」 | 「お旅立ちになられましたね」「穏やかに眠りにつかれました」 | 死亡を伝える時 |
| 「呼吸が弱い」 | 「ゆっくりと、ご自分のペースで呼吸していらっしゃいますね」 | 呼吸状態の変化を伝える時 |
| 「浮腫がひどい」 | 「体が水分を蓄えて、頑張ってくれていますね」 | 浮腫の進行を説明する時 |
| 「床ずれができている」 | 「体の一部が少し疲れて、手当てが必要になっていますね」 | 褥瘡発生を伝える時 |
【ポイント】言葉選びの3つの原則

- 否定語を使わない:「ない」「悪い」「できない」ではなく、肯定的な表現を探す
- 主体性を尊重する:「~されている」「~していらっしゃる」と、患者様が主体であることを表現
- プロセスを伝える:「今は」「これから」など、時間の流れの中の一場面として捉える。

自分の発言を振り返り、もっとマイルドにできなかったかな?と考えることも、とても大切です。
4.病名を直接言わない―もう一つの「優しさの技術」
マイルドな言い換え表現と同じくらい大切なこと。それは、病名や診断名を直接的に口にしないという配慮です。
なぜ病名を避けるのか
患者様やご家族は、たとえ医師から診断や余命宣告を受けていたとして、自分で言葉にするのはよくても、他者から言われるとネガティブな感情が沸き立ってしまうものです。
頭では理解していても、心は別。
「癌」「頚椎損傷」「末期」といった重篤な疾患名や状態を、第三者である看護師から改めて口にされると、現実を突きつけられたような辛さを感じてしまうのです。
【実例】便秘の相談への対応
ある日、癌を患われている患者様のご家族から次のような質問を受けました。
「最近、便が全然出なくて困るんです。どうして便秘してしまうんでしょうか?」
このとき、あなたならどう答えますか?
❌ 医療的・直接的な説明
「癌の痛みに対する痛み止めの副作用です。麻薬は腸の動きを抑制するため、便秘が起こりやすいんです」
→ 問題点: 事実としては正確ですが、「癌」という病名を改めて口にすることで、ご家族の心を痛めてしまう可能性があります。
⭕️ マイルドで温かい説明
「大変なご病気と戦っていらっしゃる〇〇様は、その戦いをサポートするために痛み止めのお薬を使っていますよね。実は痛み止めはお腹の動きにも影響してしまうことが多いんです。そのためなんですよ」
→ 良い点:
- 病名を使わず「大変なご病気」と表現
- 「戦っていらっしゃる」と、患者様の頑張りを認める
- 医学的な正確さは保ちつつ、温かい言葉で説明
なぜこの配慮が必要なのか
ご家族にとって、医師からの告知は一度きりの重い瞬間です。
その後、日常のケアの中で看護師から何度も病名を繰り返されると、「またその言葉を聞かされるのか…」という疲労感や悲しみが積み重なってしまいます。
私たちができることは、医学的に正確な情報を伝えながらも、言葉のクッションを置いてあげること。

在宅の看護師だからこそできる「優しさの技術」だと思っています。
5.訪看管理者としてスタッフに伝えたい「言葉の温度」

記録用の言葉と、対話の言葉は違う
看護記録では、客観的で正確な表現が求められます。
「SpO2 88%に低下」 「食事摂取量 0%」 「意識レベル JCS II-10」
これらは記録として正しく、必要な情報です。
しかし、記録用の言葉でそのまま話しては、心のこもった温かい言葉とは言えません。
記録は「事実」を残すもの。 対話は「心」を交わすもの。
この違いを、スタッフには常に意識してもらいたいと思っています。
言葉の温度感を大切にしてほしい
心のこもらない言葉は「冷たい」ものです。
どんなに正確な情報でも、どんなに専門的な説明でも、そこに温度がなければ、相手の心には届きません。
逆に、少し言葉が拙くても、温かい思いやりがこもっていれば、それは必ず伝わります。
「迷うこと」を肯定する管理者のスタンス

ある日、スタッフが訪問後に相談に来ました。
「管理者さん、今日、ご家族にショックを与えてしまったかもしれません…どう伝えたらよかったんでしょうか」
私はこう答えます。
「迷うこと自体が、あなたが患者さんを大切に思っている証拠だよ。正解なんてないんだ。でも、その気持ちはきっと伝わっているから」
言葉選びに迷うこと、悩むこと、それは看護師として当然の感情です。
むしろ、迷わずに機械的に話せてしまう方が、私は心配になります。
6.スタッフへのメッセージ

管理者としてスタッフに伝えたいこと。それは・・・
- 完璧な言葉を探す必要はない
- 相手を思いやる気持ちがあれば、それは必ず伝わる
- 失敗してもいい。次に活かせばいい
- あなたの優しさは、必ず誰かの支えになっている
そして、もし言葉選びに迷ったときは、いつでも相談してほしい。一緒に考えましょう。
7.まとめ:言葉は、私たちが届けるケアの一つです
雪国の夜は、本当に暗く、静かです。
そんな中で、家々の窓から漏れる温かい明かりは、どれほど心を安らげてくれることでしょう。
私たちの言葉も、同じだと思うのです。
人生の最終章を迎えた患者様とそのご家族にとって、看護師の言葉は、雪の中で静かに灯る明かりのようなものではないでしょうか。
私たちの言葉が、ご家族の記憶を温めるものであってほしい。
技術の前に、心を
言い換えの技術、コミュニケーションスキル、そういったものも確かに大切です。
でも、スキルよりも先に、目の前の人を慈しむ「心」を言葉に乗せること。
それが何より大切だと、私は信じています。
最後に
この記事で紹介した言い換え表現は、あくまで一例です。
大切なのは、表現そのものではなく、「この方に、どう伝えたら優しく届くだろう」と考え続ける姿勢です。
明日、あなたが訪問する患者様のご自宅で。
あなたの温かい言葉が、誰かの心を照らす明かりになりますように。
この記事を書いている訪看管理者カムに少しでも興味を持たれた方、ぜひこちら↓の記事で私のことをもっと知ってください!



