訪問看護の現場学

SBARよりもI-SBARC?|訪問看護の報告術

訪問看護の現場学

訪問看護師の皆さん、「SBAR」は知っていても「I-SBARC」ってご存知でしょうか。

こんにちは!看護師歴16年、現在訪問看護ステーション管理者のカムと申します。

カム
カム

突然ですが、みなさんは訪問看護の現場で医師への報告に悩んだ経験はありませんか?

「何をどの順番で伝えればいいのか分からない」
「焦って伝え忘れてしまう」
「医師から『で、結局どうしてほしいの?』と言われてしまう」

こうした課題を解決するのが、**I-SBARC(アイ・エスバーク)**という医療コミュニケーションツールです。

この手法は、必要な情報を漏れなく・簡潔に伝えるための標準化された枠組みとして、多職種連携の現場で威力を発揮します。

今回は、訪問看護師が医師へ報告する際に活用できるI-SBARCの実践方法を、具体例とともに詳しく解説します。

I-SBARCとは?―医療安全を守るコミュニケーションツール

I-SBARCの目的

⚠ 医療事故の発生要因の一つが、コミュニケーションエラーです。

I-SBARCは、特に患者の急変時など危機的状況で起こりやすいエラーを防ぐために開発されました。

カム
カム

緊急時など、焦ってしまう場面で活躍するツールなんです!

I-SBARCの6つの要素

I-SBARCは以下の6つのステップで構成されています。

要素英語日本語伝える内容
IIdentify報告者・対象者報告者はだれか、対象者はだれか
SSituation状況患者に何が起こっているか(症状や問題点)
BBackground背景臨床的背景は何か(患者情報・バイタルサイン)
AAssessment評価問題は何か(データや身体所見からの見立て)
RRecommendation提案対処方法は何か(具体的な行動提案)
CConfirm復唱指示内容は何か(口頭指示の最終確認)

【Before】よくわからない報告の例

まず、改善前の報告例を見てみましょう。

改善前の報告

看護師: 「△△の〇〇さんですが、熱があります。どうしたらいいでしょうか」

一見普通の報告に見えますが、実は多くの問題を含んでいます。

⚠ 課題点

I-SBARCの要素問題点
I 報告者・対象者誰が報告しているのか、患者の詳細情報がない
S 状況いつから熱があるのか、体温は何度か不明
B 背景情報バイタルや他の症状、既往歴の情報がない
A 評価・見立て報告者の判断や考察が示されていない
R 具体的な依頼「どうしたらいいでしょうか」は曖昧な質問
C 復唱確認指示を正確に理解したか確認する手順がない
カム
カム

このような不十分な報告では、医師の判断材料が不足し、対応が遅れる恐れがあります。

【After】I-SBARCを活用した報告の例

同じ状況を、I-SBARCを使って報告するとこうなります。

改善後の報告
要素報告内容
I Identify訪看ステーション△看護師の◻◻です。○○さんについて報告します。
S Situation昨夜から発熱があります。現在38.0℃、脈90、SpO2 98%、呼吸15/分。 活気はあり、水分摂取は出来ており、誤嚥している様子もありません。
B Background昨日から尿量が少ないようです。腰背部痛は認めていません。 既往に膀胱炎を繰り返しています。
A Assessment膀胱炎を疑っています。
R Recommendation診療(往診)をお願いできますか。
C Confirm「カロナール200mg 1錠内服・水分摂取」を復唱し、与薬します。
カム
カム

この報告なら、医師は即座に状況を把握し、適切な判断ができます!

I-SBARCの各要素を詳しく解説

I : Identify(報告者・対象者の同定)

報告者はだれか、対象者はだれかを明確に

自己紹介(職種・氏名)+患者の氏名・居所を伝えます。慌てる場面ほど名前を言い忘れがちなので、意識的に伝えましょう。

具体例:
  • 「訪看ステーション△看護師〇〇です。サ高住入所中の□□さんについて報告があります。」

💡 実践のコツ
報告の最初にI(報告者・対象者)を明確にすることで、医師も誰について話しているか即座に理解でき、確認のために時間を無駄にすることがなくなります。

S : Situation(状況・状態)

患者に何が起きているかを簡潔に

いつ、何が、どの程度起こっているか状況を伝えます。

具体例:
  • 「朝から38℃の熱発がある。」
  • 「10時に多量の嘔吐があった。」

S(状況)では主訴や症状を簡潔に伝え、次のB(背景)につなげましょう。

B : Background(背景・経過)

患者に関する臨床的背景情報を伝える

医師の患者理解度に応じて必要な情報量を調整します。

情報量の調整:

  • 常勤医: バイタルサイン、身体所見を中心に
  • 非常勤医: 病歴や治療方針、経過も手短に
具体例:
  • 「バイタルサインは〇〇です。意識は〇〇。右下腹部に圧痛があります。」
  • 「膵癌で麻薬使用中の患者さんです。フェントステープ使用開始後より症状が強まっています。」

A : Assessment(評価)

情報・データ・身体所見から考えた評価を伝える

可能性の一つとして自信をもって伝えます。判断がつかない場合はその旨を正直に伝えましょう。

具体例:
  • 「脳梗塞の可能性があります。」
  • 「原因はわかりませんが、原疾患の急性増悪かもしれません。」

看護師としての視点からの評価を伝えることで、医師の判断材料が増え、より適切な対応が可能になります。

R : Recommendation(依頼・要請)

患者に起こっている問題を解決するために、医師に具体的な行動を提案します

何をしてほしいのかを明確に伝えることが重要です。

具体例:
  • 「朝一で診察をお願いします」
  • 「〇〇開始したいのですがいかがでしょうか?」
  • 「状態が不安定なため、往診をお願いできますか?」

「どうしたらいいでしょうか」という曖昧な質問ではなく、具体的な提案をすることで、医師も判断しやすくなります。

C : Confirm(口頭指示の復唱確認)

医師からの指示を復唱し、最終確認を行います

復唱は薬剤の単位や錠剤の数など明確に行い、間違いを防ぐために必ず実施しましょう。

具体例:
  • 「常備薬のクラビット250mg 1日1回1錠で与薬開始します」
  • 「カロナール200mg 1錠を与薬します」

医療安全の最後の砦として、復唱確認を習慣化しましょう。

実践例:I-SBARCを使った完全な報告フロー

実際の報告の流れを、I-SBARCの各要素に分けて確認してみましょう。

事例:発熱のある利用者さんの報告

要素報告内容I-SBARCのポイント
I「〇〇ステーション看護師◻◻です。△△の○○さん…」報告者・対象者の同定
S「昨夜から熱があったようです。今訪問中なのですが、熱は38度、脈は90、SpO2は98%、呼吸回数15回。活気はあり、水分摂取は出来ており、誤嚥している様子もありません。」状況・状態(バイタル含む)
B「ただ、昨日から尿量が少ないようです。腰背部痛は認めていません。既往に膀胱炎を繰り返しているので…」背景・経過(既往歴含む)
A「膀胱炎を疑っています。」評価(看護師の見立て)
R「診察お願いしてもよろしいでしょうか。」提案(具体的な依頼)
C「カロナール200mg 1錠を与薬します。」復唱(指示内容の確認)

この流れを習得すれば、緊急時でも落ち着いて必要な情報を漏れなく伝えられます。

I-SBARCを活用するメリット

1. 情報の漏れを防ぐ

標準化されたフレームワークにより、伝えるべき情報を網羅できます。

2. 報告時間の短縮

必要な情報が整理されているため、簡潔に伝えられます。

3. 医師の判断スピード向上

医師が必要とする情報が構造化されて届くため、迅速な判断が可能になります。

4. 医療安全の向上

復唱確認により、指示内容の誤認を防ぎます。

5. チーム全体の共通言語

看護師だけでなく、事務や相談員も同じフレームワークで報告できるため、多職種連携が円滑になります。

まとめ:有効な報告は患者様のメリットに直結する

I-SBARCの6つのステップ:

  1. I (Identify) – 報告者・対象者を明確に
  2. S (Situation) – 現在の状況を簡潔に
  3. B (Background) – 臨床的背景を伝える
  4. A (Assessment) – 看護師としての評価を示す
  5. R (Recommendation) – 具体的な提案をする
  6. C (Confirm) – 指示内容を復唱確認する

実践のポイント

  • 報告の方法(報告すべきこと)がわかっていれば、患者や家族からの情報収集も的確に行えます。
  • 有効な報告は患者様のメリットに直結し、安全で質の高い医療提供につながります。

現場の報告時にはI-SBARCを参照し、コミュニケーションを標準化することで医療安全の向上を図りましょう。

おわりに

訪問看護の現場では、医師と直接対面できない状況での報告が多く、電話でのコミュニケーションが中心になります。だからこそ、限られた時間の中で正確に情報を伝える技術が求められます。

I-SBARCは、単なる報告ツールではありません。医療安全を守り、患者さんの最善の利益を実現するための共通言語です。

最初は型通りに実践し、慣れてきたら状況に応じて柔軟に応用していきましょう。I-SBARCを活用することで、医師との信頼関係が深まり、チーム医療の質が向上します。

ぜひ明日からの訪問看護の現場で、I-SBARCを取り入れてみてください

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