訪問看護の現場学

看護師が学ぶべき宗教②仏教

仏教アイキャッチ 訪問看護の現場学

こんにちは!雪国の訪問看護ステーション管理者カムです。
「看護師が学ぶべき宗教」シリーズ第2弾は、日本人にとって最も身近な宗教、「仏教」についてお話しします。

カム
カム

皆さんは、こんな経験ありませんか?

「宗教は?」と聞かれて「無宗教です」と答える。

でも、お盆にはお墓参りに行き、葬式はお寺でやり、家には仏壇がある。

お正月には神社に初詣に行き、クリスマスにはケーキを食べる…

私たち日本人と仏教の関係、実はとっても不思議なんです。

この記事で学べること

  • 仏教の基本的な知識(信者数、釈迦の教えから大乗仏教への変化)
  • 主要宗派の違いと見分け方(浄土真宗、浄土宗、曹洞宗)
  • 仏教における死生観(輪廻転生、極楽浄土、成仏)
  • 看取りや終末期ケアで配慮すべきこと
  • 訪問看護の現場で使える実践的なポイント

この記事を読むことで、仏教を信仰する利用者様への理解が深まり、より寄り添ったケアができるようになります。

それでは、一緒に学んでいきましょう!


【重要】この記事をお読みいただく前に

この記事は、看護師が訪問看護の現場で利用者様の信仰を理解し、尊重するための一般的な知識を提供するものです。

医療行為や終末期ケアに関する判断は、必ず以下を遵守してください:

  • 医療的判断は、主治医や医療チームと相談の上で行うこと
  • 利用者様本人やご家族の意向を最優先すること
  • 宗教的な儀式や処置については、本人・家族・僧侶と十分に相談すること
  • この記事の内容は参考情報であり、個別のケースに必ずしも当てはまるとは限りません

宗教は非常にデリケートな領域です。個人の信仰を尊重し、決して押し付けや偏見を持たないよう注意してください。


日本人と仏教の不思議な関係

訪問看護の現場で、利用者様のお宅を訪問すると、ほとんどのご家庭に仏壇があります。

「宗派は?」とお尋ねすると、「えーと…浄土真宗…だったかな?」と首をかしげる方も少なくありません。

実は、文化庁の宗教統計調査によると、日本の仏教信者数は約8,107万人(※1)。

でも、意識調査では「仏教を信仰している」と答える人は全体の34%程度(※2)。

つまり、自覚のない仏教徒がたくさんいるということです。

家に仏壇があって、お盆にはお墓参りして、葬式はお坊さんを呼ぶ。

でも「宗教は?」と聞かれたら「無宗教です」と答え、お正月には神社に初詣…

これが、私たち日本人と仏教の不思議な関係なんです。

訪問看護の現場では、こうした「意識していないけれど生活に根付いた仏教」を理解することが、利用者様とそのご家族に寄り添うケアにつながります。

※1 出典: 文化庁「令和6年 宗教統計調査」(令和5年12月31日現在)
※2 出典: NHK放送文化研究所「ISSP国際比較調査(宗教)2008」


仏教の概要

世界・日本における信者数

仏教は、キリスト教、イスラム教と並ぶ世界三大宗教の一つです。

世界の仏教徒は約5億人で、その多くはアジア地域に分布しています。

日本では、文化庁の統計によると仏教系の信者数は約8,107万人(※3)。日本の人口の約65%にあたります。

ただし、これは各寺院が報告した檀家数などの合計であり、実際に「仏教徒」という自覚を持っている人はもっと少ないと考えられます。

日本における主要な仏教宗派の信者数

  • 浄土系(浄土真宗、浄土宗):約2,208万人
  • 日蓮系:約1,081万人 ・真言系:約549万人
  • 禅系(曹洞宗、臨済宗):約533万人
  • 天台系:約278万人

※3 出典: 文化庁「令和6年 宗教統計調査」(令和5年12月31日現在)

成り立ちと歴史:釈迦の教え→「念仏唱えればOK」へ

仏教は、紀元前5世紀頃、インドのシャカ族の王子として生まれたゴータマ・シッダールタ(釈迦)が開いた宗教です。

釈迦は、29歳で出家し、6年間の厳しい苦行の末、35歳で菩提樹の下で悟りを開き、ブッダ(覚者)となりました。

釈迦の教えの核心は、**「四苦八苦から解脱するための修行」**でした。

これは、座禅を組み、厳しい戒律を守り、煩悩を断ち切るという、かなりハードルの高いものでした。

しかし、仏教がインドから中国、朝鮮を経て日本に伝わる過程で、大きな変化が起こります。

それが「大乗仏教」の誕生です。

大乗仏教の面白いポイント:「楽して極楽」

元々の釈迦の教え(上座部仏教)は、自分で修行して悟りを開くというストイックなものでした。

しかし、これでは一般の人々には厳しすぎる…

そこで生まれたのが「大乗仏教」です。

大乗仏教の特徴は、**「念仏を唱えれば救われる」「信じれば極楽浄土に行ける」**という、いわば「簡易版」になったこと。

特に日本の浄土系宗派では、「南無阿弥陀仏」と唱えるだけで極楽に行けるされました。

カム
カム

厳しい修行? 不要です。 煩悩を断つ? 煩悩あるままでOKです。
ただ念仏を唱えればいいんです!

これ、皮肉めいているかもしれませんが、人間、楽して極楽へ行きたいんですよね

だからこそ、浄土系は日本最大の仏教宗派になったのです。

主要な宗派

日本の仏教には多くの宗派がありますが、訪問看護の現場で出会うのは主に以下の宗派です:

  1. 浄土真宗:日本最大の宗派。「南無阿弥陀仏」の念仏
  2. 浄土宗:念仏を重視。「南無阿弥陀仏」
  3. 曹洞宗:禅宗。座禅を重視
  4. 臨済宗:禅宗。座禅と公案
  5. 真言宗:密教。「南無大師遍照金剛」
  6. 日蓮宗:「南無妙法蓮華経」の題目

主要宗派の違い

訪問看護の現場で最も出会いやすい3つの宗派を比較します。

項目浄土真宗浄土宗曹洞宗
開祖親鸞法然道元
本尊阿弥陀如来阿弥陀如来釈迦如来
唱える言葉南無阿弥陀仏(念仏)南無阿弥陀仏(念仏)特になし(黙照禅)
救いの方法阿弥陀仏の本願を信じる(他力本願)念仏を唱える座禅で悟りを開く(自力)
修行の姿勢修行不要。信心のみ念仏行座禅修行
戒名法名(釈○○、釈尼○○)戒名戒名
焼香回数1回(または2回)1〜3回2回
数珠独特の形状(門徒数珠)一般的な形一般的な形
特徴最も簡素。「悪人正機」の思想念仏中心座禅中心。「只管打坐」

出典: 各宗派の公式サイト、文化庁資料を参考に作成

訪問看護での実践ポイント

どう見分けるか

  • お経の違い:「南無阿弥陀仏」→浄土系、「南無妙法蓮華経」→日蓮宗
  • 仏壇の形:浄土真宗は金仏壇が多い、曹洞宗は質素
  • お墓の形:浄土真宗は「南無阿弥陀仏」、日蓮宗は「南無妙法蓮華経」と刻まれている

お坊さんの呼び方

  • 「住職さん」「お坊さん」が一般的
  • 浄土真宗では「ご院家さん」「ご院さん」と呼ぶ地域もある

宗派による葬儀・法事の違い

  • 浄土真宗:お清めの塩がない、「冥福を祈る」とは言わない
  • 曹洞宗:座禅を組む儀式がある場合も
  • 日蓮宗:題目(南無妙法蓮華経)を唱える

命についての考え方

生と死の捉え方

仏教の根本思想は「四苦八苦」、つまり人生は苦しみに満ちているというものです。

  • 生苦(しょうく):生まれること自体が苦しみ
  • 老苦(ろうく):老いることの苦しみ
  • 病苦(びょうく):病気の苦しみ
  • 死苦(しく):死ぬことの苦しみ

そして、この苦しみから解放されること(解脱)が、仏教の最終目標です。

死は終わりではなく、次の生への通過点と考えられています。

輪廻転生と六道、極楽浄土

仏教における死後の世界と輪廻転生の概念を整理します。

概念内容看護師として知っておくべきこと
輪廻転生死後、六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天)のいずれかに生まれ変わり、生死を繰り返すこと。生前の行い(業・カルマ)によって次の世界が決まる「また会えるかもしれない」という希望が、遺族の慰めになることがある
六道輪廻地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道の6つの迷いの世界を輪廻すること。どの道も苦しみがある四十九日法要は、故人が六道を彷徨わず極楽に行けるよう祈る意味がある
極楽浄土阿弥陀如来が治める苦しみのない理想世界。浄土系では、念仏を唱えることで往生できるとされる「極楽で安らかに」という言葉が、遺族にとって大きな慰めになる
成仏悟りを開いて仏になること。日本では「死者が仏になる」という意味でも使われる葬儀は「故人を仏にする儀式」という側面がある
四十九日死後49日間は「中陰」と呼ばれ、次の生を決める期間。7日ごとに閻魔大王の裁きを受け、49日目に行き先が決まる四十九日法要は仏教儀礼の重要な節目

出典: 浄土真宗本願寺派、浄土宗、曹洞宗などの各宗派公式サイト、宗教情報センター資料を参考に作成

看護師が理解すべきポイント

  • 仏教では死は「終わり」ではなく「次の生への通過点」
  • 浄土系では「極楽浄土に行ける」という希望が大きな慰め
  • 四十九日までの法要は、故人の行き先を良い方向に導くための儀式

お寺の役割

信仰生活におけるお寺の位置づけ

お寺は、仏教徒にとって信仰の拠点であり、先祖供養の場です。

多くの日本人は「檀家(だんか)」として特定のお寺に所属しています。

檀家とは、お寺を経済的に支える家のことで、その見返りとして葬儀や法事を執り行ってもらいます。

僧侶(お坊さん)の役割

  • 葬儀
  • 法事の執行
  • 読経 ・戒名(法名)の授与
  • 先祖供養
  • 法話(仏教の教えを説く)

地方のお寺事情:雪国の法事は大変です

私の祖父が亡くなったとき、お坊さんは車で2時間かけて来てくださいました。

地方では、お坊さんが常駐していない地域も多く、法事の日程調整が大変です。

特に冬、雪が降る地域では、お坊さんが来られないこともあります。

「法事は雪が降る前に」というのが、雪国の知恵だったりします。

訪問看護での連携ポイント

  • 終末期に読経を希望される場合は、早めにお寺に連絡できるよう支援
  • 地方では僧侶の手配に時間がかかることを理解する
  • 四十九日法要などの予定を把握し、訪問スケジュールを調整

※ケアプランの変更や他職種連携については、必ずケアマネジャーや主治医と相談の上で進めてください


医療・治療に関する価値観

医療行為への姿勢

仏教は基本的に、医療行為を肯定的に捉えます。

釈迦自身も「病を癒すことは慈悲の実践」と説いており、医療と仏教は矛盾しません

輸血・臓器移植

仏教の主要宗派は、輸血や臓器移植を認めています

「自分の体を他者のために使うこと」は、慈悲の精神に適うと考えられています。

ただし、創価学会など一部の新宗教では見解が異なる場合があります。

延命治療・尊厳死

宗派や個人によって見解が分かれます。

  • 「生命は尊い」という観点から延命を選ぶ人
  • 「苦しみからの解放」を重視し、自然な死を選ぶ人

医療的判断については、必ず本人・家族・医療チームで十分に話し合い、インフォームドコンセントを得た上で実施してください。


看取り・終末期ケアでの配慮

終末期の過ごし方

仏教徒の患者様は、終末期に以下のことを希望されることがあります:

  • お経を唱える、または聞く
  • 仏壇の前で過ごす時間 ・僧侶の訪問を受ける
  • 家族と共に念仏を唱える(浄土系)

臨終時の儀式

枕経(まくらぎょう)

臨終直後、僧侶が枕元で読経することを「枕経」と言います。

故人の魂を慰め、極楽浄土への旅立ちを祈る儀式です。

看護師としては、ご家族から「お坊さんを呼びたい」と言われたら、迅速に対応することが重要です。

ただし、宗教的儀式の実施については、本人・家族の意向を最優先し、医療チームと情報共有した上で調整してください。

死後の処置で配慮すべきこと

  • 北枕:遺体を北向き(頭を北)に安置する習慣がある(釈迦が入滅したときの姿勢)
  • 合掌:手を合掌させ、数珠を持たせることがある
  • 清拭:遺体を丁寧に清める

死後の処置に関する注意

死後の処置や宗教的な対応については、必ず家族の意向を確認し、施設や病院の方針に従ってください。

個人の判断で宗教的なシンボルを配置したり、儀式を行うことは避け、家族や僧侶の指示を仰いでください。

葬儀の形式

  • 通夜:故人を偲び、一晩を共に過ごす儀式
  • 葬儀・告別式:僧侶による読経、焼香、引導(故人を浄土に導く儀式)
  • 火葬:日本では9割以上が火葬
  • 四十九日法要:故人の極楽往生を祈る重要な法要

訪問看護師が知っておくべき実践的ポイント

宗教的タブーと配慮事項のチェックリスト

チェック項目配慮のポイント
□ 仏壇への配慮仏壇の前を横切らない、仏壇に背を向けて座らない
□ 僧侶の訪問読経を希望される場合は早めに手配を支援
□ 法事の日程四十九日、一周忌など法事の予定を把握し、訪問スケジュールを調整
□ お経の時間読経中は静かに見守る。緊急時以外は邪魔しない
□ 数珠・仏具利用者の宗派の数珠や仏具を大切に扱う

利用者・家族の宗教的背景の聞き方・確認方法

初回訪問時のアセスメントで、さりげなく確認しましょう:

「ご信仰されている宗教や宗派はありますか?」

「法事やお参りなど、大切にされている習慣はありますか?」

押し付けがましくならず、相手が話したいと思ったら話せる雰囲気を作ることが大切です。

他職種(僧侶、ケアマネ)との連携

終末期ケアでは、医療・介護チームだけでなく、僧侶も含めたチームアプローチが重要です。

利用者様が檀家としてお寺とつながっている場合、ケアマネジャーや医師と情報共有し、僧侶の訪問をケアプランに組み込むことも検討しましょう。

連携に関する注意

他職種との連携やケアプランの変更については、必ずケアマネジャーや主治医と相談の上で進めてください。

個人の判断で外部の人間(僧侶など)を医療現場に入れることは、施設や訪問看護ステーションの方針に反する可能性があります。

自分の価値観と相手の信仰のバランスの取り方

看護師自身の宗教観や価値観と、利用者様の信仰が異なることは当然あります。

大切なのは、「相手の信仰を尊重する」という姿勢です。

自分の価値観を押し付けず、相手の信仰が相手にとってどれほど大切なものかを理解し、それに寄り添うことが、プロフェッショナルな看護です。


まとめ

仏教を知ることは、日本人の約7割が何らかの形で関わっている宗教文化を理解することです。

「無宗教」と言いながらも、お盆にはお墓参りをし、葬式は仏式で行う。

そんな「無自覚な仏教徒」が多い日本だからこそ、看護師が仏教の基礎を知っておくことは、利用者様とそのご家族に寄り添う上で非常に重要です。

再度のお願い

この記事で紹介した内容は、あくまで一般的な知識です。

医療行為、終末期ケア、宗教的儀式に関する判断は、必ず本人・家族・主治医・僧侶と十分に相談の上で行ってください。

個人の信仰は多様であり、同じ仏教徒でも宗派や個人によって考え方は大きく異なります。一人ひとりの価値観を尊重する姿勢を忘れずに。

今回学んだ知識を、明日からの訪問に活かし、利用者様とそのご家族に、より深い安心と信頼を届けていきましょう。

次回は「看護師が学ぶべき宗教③イスラム教(仮)」をお届けします。お楽しみに!


参考文献・出典一覧

  1. 文化庁「令和6年 宗教統計調査」(令和5年12月31日現在)
  2. NHK放送文化研究所「ISSP国際比較調査(宗教)2008」
  3. 浄土真宗本願寺派 公式サイト
  4. 浄土宗 公式サイト
  5. 曹洞宗 公式サイト
  6. 宗教情報センター「現代の伝統仏教の『死後の世界』観」
  7. 大正大学出版会『三大宗教 天国・地獄 QUEST』2008年

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