こんにちは!雪国の訪問看護ステーション管理者カムです。
今回からは、私が現場で必要と感じた知識の一つ、「宗教」についてお話していきたいと思います。

皆さんは、宗教についてどのような考えをお持ちですか?
「宗教は個人の自由」
「特に意識したことがない」
という方も多いかもしれません。
しかし、訪問看護の現場では、様々な宗教を信仰されている患者様と出会います。
そして特に、人生の最期という最も繊細な場面で、その方の信仰が大きな意味を持つことがあります。
看護師として、宗教上特に重要な「死」に関わる部分をケアするためには、宗教を知るということは非常に重要なことではないでしょうか。
この記事で学べること
- キリスト教の基本的な知識(信者数、歴史、教派)
- カトリックとプロテスタントの違いと見分け方
- キリスト教における死生観と終末期の考え方
- 看取りや終末期ケアで配慮すべきこと
- 訪問看護の現場で使える実践的なポイント
この記事を読むことで、キリスト教を信仰する利用者様への理解が深まり、より寄り添ったケアができるようになります。
それでは、一緒に学んでいきましょう!
【重要】この記事をお読みいただく前に
この記事は、看護師が訪問看護の現場で利用者様の信仰を理解し、尊重するための一般的な知識を提供するものです。
医療行為や終末期ケアに関する判断は、必ず以下を遵守してください:
・医療的判断は、主治医や医療チームと相談の上で行うこと
・利用者様本人やご家族の意向を最優先すること
・宗教的な儀式や処置については、本人・家族・聖職者と十分に相談すること
・この記事の内容は参考情報であり、個別のケースに必ずしも当てはまるとは限りません
宗教は非常にデリケートな領域です。個人の信仰を尊重し、決して押し付けや偏見を持たないよう注意してください。
はじめに:なぜ看護師が宗教を学ぶべきなのか
訪問看護の現場で、利用者様のお宅を訪問すると、時折、十字架やマリア像が飾られているのを目にすることがあります。
あるいは、終末期の利用者様から「神父さん(または牧師さん)を呼んでほしい」と頼まれたり、ご家族から「日曜日は礼拝があるので訪問時間を調整してほしい」と相談されることも。
こうした場面で、私たち看護師がキリスト教について最低限の知識を持っているかどうかが、ケアの質を大きく左右します。
宗教は、人々の価値観、生き方、そして死生観の根幹を成すものです。特に、人生の最終章を共に歩む訪問看護の現場では、利用者様の信仰を理解し、尊重することが、真の寄り添いにつながります。
このシリーズでは、世界三大宗教であるキリスト教、イスラム教、仏教を中心に、看護師として知っておくべき宗教の基礎知識をお伝えします。
キリスト教の概要

世界・日本における信者数
キリスト教は、世界最大の宗教です。
ピュー研究所の調査によると、2020年時点で世界の信者数は約23億8200万人で、世界人口の約31%を占めます(※1)。
実に、世界の3人に1人がキリスト教徒ということになります。
その内訳は、 ・カトリック教会:約12億人(約50%) ・プロテスタント諸派:約5億人(約22%) ・正教会:約3億人(約13%) ・その他の諸派:約4億人
一方、日本では文化庁の宗教統計調査(2022年版)によると、キリスト教系の信者数は約196万人で、日本の人口の約1.5%程度です(※2)。
実数では東京都が約93万人と最も多く、次いで神奈川県が約30万人です。人口比で見ると、キリスト教が日本に伝来した長崎県(人口1万人あたり約476人)が高い比率を示しています。
※1 出典: Pew Research Center “The Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050” ※2 出典: 文化庁「令和4年度 宗教統計調査」
成り立ちと歴史
キリスト教は、紀元前6年〜紀元前4年頃にベツレヘムで生まれたナザレのイエスを、神の子(キリスト=救世主)として信仰する宗教です。
イエスは30歳頃からガリラヤで宣教を開始し、「神の国」の福音を説きました。しかし、紀元30年頃、エルサレムで十字架刑に処されます。
キリスト教の中心的な教えは、イエスが人類の罪を贖うために十字架で死に、3日目に復活したというものです。この「イエスの死と復活」が、キリスト教信仰の核心となっています(※3)。
その後、使徒パウロらによってローマ帝国全域に広がり、313年にコンスタンティヌス帝がキリスト教を公認、392年にはローマ帝国の国教となりました。
11世紀に東西教会が分裂(東方正教会とカトリック教会)し、16世紀には宗教改革によってプロテスタントが誕生しました。
※3 出典: カトリック中央協議会「カトリック教会の教え」
主要な教派
キリスト教には大きく分けて3つの教派があります:
- カトリック教会:ローマ教皇を頂点とする最大の教派
- プロテスタント諸派:16世紀の宗教改革で生まれた教派群
- 正教会:東ヨーロッパ・ロシアを中心とする教派
日本の看護の現場で出会うのは、主にカトリックとプロテスタントです。正教会の信者は日本では少数ですが、存在することは知っておくとよいでしょう。
カトリックとプロテスタントの違い
看護師として重要なポイントの一つは、カトリックとプロテスタントの違いを理解することです。
| 項目 | カトリック | プロテスタント |
|---|---|---|
| 組織 | ローマ教皇を頂点とする中央集権的組織 | 各教会が独立。統一的指導者なし |
| 聖職者 | 神父(司祭)。生涯独身、男性のみ | 牧師。結婚可能、男女とも可 |
| 権威の源 | 聖書+教会の伝統 | 聖書のみ |
| 救いの条件 | 信仰+善行 | 信仰のみ |
| 礼拝 | ミサ(儀式中心) | 礼拝(説教中心) |
| 聖母マリア | 特別な崇敬の対象 | 一人の人間として尊重 |
| 秘跡 | 7つ(洗礼、堅信、聖体、ゆるし、病者の塗油、叙階、結婚) | 2つのみ(洗礼、聖餐) |
| 煉獄 | 存在を認める | 認めない |
| 十字架 | イエスが磔にされた十字架 | 十字架のみ(シンプル) |
| 教会の装飾 | 豪華絢爛 | シンプル |

同じキリスト教と言っても細かな違いがいろいろあるんですよね。
出典: カトリック中央協議会、日本キリスト教協議会などの公式情報を参考に作成
訪問看護での実践ポイント
どう見分けるか
- お宅に十字架やマリア像があれば→カトリックの可能性大
- 十字架のみでマリア像がなければ→プロテスタントの可能性大
- 聖職者の呼び方を聞く:「神父さん」→カトリック、「牧師さん」→プロテスタント
訪問スケジュールでの配慮
- 日曜日が礼拝日なので、可能であれば訪問時間を調整する
- カトリックでは日曜の「ミサ」、プロテスタントでは「礼拝」が重要

「日曜日の訪問時間、ご希望などありますか?」とこちらからお声かけすると良いかもしれません。
終末期での配慮
- カトリックの場合、「病者の塗油」(終油の秘跡)を受けたいと希望されることがある
- プロテスタントでも、牧師による祈りや聖書朗読を希望されることがある
- 聖職者の訪問を希望される場合は、早めに連携を
命についての考え方

生と死の捉え方
キリスト教では、人間は神によって創造された尊い存在です。それゆえ、すべての人の命は神聖で、平等に価値があるとされます(※4)。
死は、肉体と魂の分離と捉えられます。肉体は朽ちますが、魂は永遠であり、神の裁きを受けて天国か地獄に行くとされています。
ただし、死は「終わり」ではなく、「永遠の命への入り口」であり、希望に満ちたものとして捉えられます。
※4 出典: カトリック中央協議会「カトリック教会のカテキズム」
天国と地獄、復活の信仰
キリスト教における死後の世界と復活の概念を整理します。
| 概念 | 内容 | 看護師として知っておくべきこと |
|---|---|---|
| 天国 | 神の臨在があり、苦しみや痛み、死がない永遠の喜びの場所。イエス・キリストを信じた人が神との完全な交わりの中で永遠の命を受ける | 「天国で安らかに」という言葉が、信者にとって大きな慰めになる |
| 地獄 | 神からの永遠の分離。神の義に対する反逆の結果、神から完全に切り離された状態 ※プロテスタントの一部は「完全消滅」と解釈 | 終末期の不安に対し、信仰が救いとなることを理解する |
| 煉獄 (カトリックのみ) | 天国に入る前に浄化の苦しみを受ける場所。完全に清められないまま死を迎えた人が通る ※プロテスタントは否定 | カトリック信者の家族が故人のために祈り続ける理由がここにある |
| 復活と最後の審判 | 世の終わりにイエス・キリストが再臨し、死者は皆復活。生前の信仰と行いに応じて神の裁きを受け、永遠に天国か地獄へ | 「復活を信じる」という言葉の重みを理解し、遺体を丁重に扱う根拠となる |
看護師が理解すべきポイント
- 死は「終わり」ではなく「永遠の命への入り口」として捉えられている
- 遺体は「復活の時まで眠っている」という考えから、尊厳を持って扱うことが重要
- カトリックとプロテスタントで煉獄の解釈が異なることを知っておく
苦難・病の意味づけ
キリスト教徒の中には、病や苦しみを「神の試練」や「神の計画の一部」として受け止める方もいます。
「この苦しみには意味がある」「神が共にいてくださる」という信仰が、患者様の心の支えになっていることがあります。
看護師として、こうした価値観を否定せず、「その信仰があなたを支えているのですね」と受け止める姿勢が大切です。
教会の役割

信仰生活における教会の位置づけ
教会は、キリスト教徒にとって信仰共同体であり、神との交わりの場です。
日曜日の礼拝(ミサ)に参加することは、多くのキリスト教徒にとって信仰生活の中心です。
聖職者(神父・牧師)の役割
- 神父(カトリック):ミサの執行、告解(告白)の聴聞、秘跡の授与
- 牧師(プロテスタント):説教、礼拝の司式、信徒の霊的指導
終末期には、聖職者が患者様のもとを訪れ、祈りや聖書朗読、秘跡(カトリック)を通じて霊的なケアを提供します。
訪問看護での連携ポイント
- 利用者様が教会とつながっている場合、その関係を大切にする
- 終末期に聖職者の訪問を希望される場合は、早めに連絡を取れるよう支援
- 教会のコミュニティによる支援(食事の差し入れ、訪問など)がある場合、連携してケアプランに組み込む
※ケアプランの変更や他職種連携については、必ずケアマネジャーや主治医と相談の上で進めてください
医療・治療に関する価値観
医療行為への姿勢
キリスト教は基本的に、医療行為を神の癒しの手段として肯定的に捉えます(※5)。
現代医学の恩恵を受けることは、神から与えられた知恵と技術を活用することであり、信仰と矛盾しないと考えられています。
※5 出典: カトリック中央協議会「生命倫理に関する見解」
輸血・臓器移植
カトリック・プロテスタントともに、輸血や臓器移植を認めています。
ただし、「エホバの証人」(ものみの塔聖書冊子協会)は、聖書の解釈から輸血を拒否することで知られていますが、これはキリスト教の主流派ではないとされています。
医療判断に関する注意
輸血や臓器移植などの医療行為については、必ず本人・家族・主治医と十分に話し合い、インフォームドコンセントを得た上で実施してください。
宗教的理由で治療を拒否される場合は、その背景を理解しつつ、医療チームで倫理的な対応を検討する必要があります。
中絶・避妊
- カトリック:中絶も避妊も原則として認めていません。命は神から与えられた神聖なものであり、人間が勝手に操作すべきではないという立場です。
- プロテスタント:教派によって見解が分かれます。比較的柔軟な教派もあります。
看取り・終末期ケアでの配慮
終末期の過ごし方
キリスト教徒の患者様は、終末期に以下のことを希望されることがあります:
- 祈りの時間を大切にする
- 聖書を読む、あるいは読んでもらう
- 聖職者の訪問を受け、霊的な支えを得る
- 家族や教会の仲間と共に過ごす時間
臨終時の儀式・サクラメント

サクラメントとは「目に見えない神の愛や力を、パンや水、儀式などを通じて体感する神聖な行事」って感じなんですけど、日本人的には解釈しにくい言葉ですよね。
カトリック
「病者の塗油」(終油の秘跡)が非常に重要です(※6)。
これは、死を前にした信者に対して神父が聖油を額と手に塗り、祈りを捧げる秘跡です。
カトリック信者にとって、これを受けることは大きな安心と平安をもたらします。
看護師としては、事前に最後をどのように迎えたいかを聴取し、対応方法を共有しておくことが非常に重要な役割です。
宗教的儀式の実施については、本人・家族の意向を最優先し、医療チームと情報共有した上で調整してください。
※6 出典: カトリック中央協議会「病者の塗油について」
プロテスタント
プロテスタントには秘跡としての「病者の塗油」はありませんが、牧師による祈り、聖書朗読、聖餐が行われることがあります。
死後の処置で配慮すべきこと
キリスト教では、遺体は「復活の時まで眠っている」という考え方があり、遺体を丁重に扱うことが重視されます。
- 十字架やロザリオ(数珠のような祈りの道具、カトリック)を手に持たせることを希望される場合がある
- 遺体を清める際も、尊厳を持って丁寧に行う
葬儀の形式(簡単に)
- カトリック:教会でのミサ形式の葬儀
- プロテスタント:教会または葬儀場での礼拝形式の葬儀
いずれも、故人の魂が神のもとで安らかに眠ることを祈る内容です。
看取りに関しては、「言葉」にフォーカスした記事も書いています。
ぜひご覧になってください!
訪問看護師が知っておくべき実践的ポイント

宗教的タブーと配慮事項のチェックリスト
キリスト教には、イスラム教のような厳格な食事制限はありませんが、以下の点に配慮しましょう:
| チェック項目 | 配慮のポイント |
|---|---|
| □ 日曜日の礼拝(ミサ) | 可能であれば訪問時間を調整する。礼拝は信仰生活の中心 |
| □ 聖職者の訪問 | 終末期には希望を確認し、早めに連携を |
| □ 病者の塗油(カトリック) | 臨終前に受けたいという希望があるか確認 |
| □ 信仰のシンボル | 十字架やロザリオなどを大切に扱う |
| □ 祈りの時間 | 祈りを邪魔しない、静かに見守る姿勢を |
利用者・家族の宗教的背景の聞き方・確認方法
初回訪問時のアセスメントで、さりげなく確認しましょう:
「ご信仰されている宗教はありますか?」
「大切にされている習慣や、配慮してほしいことはありますか?」
押し付けがましくならず、相手が話したいと思ったら話せる雰囲気を作ることが大切です。
他職種(聖職者、ケアマネ)との連携
終末期ケアでは、医療・介護チームだけでなく、聖職者も含めたチームアプローチが重要です。
利用者様が教会とつながっている場合、ケアマネジャーや医師と情報共有し、聖職者の訪問をケアプランに組み込むことも検討しましょう。
連携に関する注意
他職種との連携やケアプランの変更については、必ずケアマネジャーや主治医と相談の上で進めてください。
個人の判断で外部の人間(聖職者など)を医療現場に入れることは、施設や訪問看護ステーションの方針に反する可能性があります。
自分の価値観と相手の信仰のバランスの取り方
看護師自身の宗教観や価値観と、利用者様の信仰が異なることは当然あります。
大切なのは、「相手の信仰を尊重する」という姿勢です。
自分の価値観を押し付けず、相手の信仰が相手にとってどれほど大切なものかを理解し、それに寄り添うことが、プロフェッショナルな看護です。
まとめ
キリスト教を知ることは、世界の3人に1人、日本でも約200万人の信者の方々の価値観や死生観を理解する第一歩です。
訪問看護の現場では、利用者様の「信仰」という目に見えない部分にも寄り添うことが、真の全人的ケアにつながります。
再度のお願い
この記事で紹介した内容は、あくまで一般的な知識です。
医療行為、終末期ケア、宗教的儀式に関する判断は、必ず本人・家族・主治医・聖職者と十分に相談の上で行ってください。
個人の信仰は多様であり、同じキリスト教徒でも考え方は異なります。一人ひとりの価値観を尊重する姿勢を忘れずに。
今回学んだ知識を、明日からの訪問に活かし、利用者様とそのご家族に、より深い安心と信頼を届けていきましょう。
次回は「看護師が学ぶべき宗教、仏教」をお届けします。お楽しみに!
参考文献・出典一覧
- Pew Research Center “The Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050”
- 文化庁「令和4年度 宗教統計調査」
- カトリック中央協議会「カトリック教会の教え」
- カトリック中央協議会「カトリック教会のカテキズム」
- カトリック中央協議会「生命倫理に関する見解」
- カトリック中央協議会「病者の塗油について」
- 日本キリスト教協議会 公式サイト



